杉家の女たち

杉家の女たち page 9/18

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きるまでにはなかなか至らなかった。姉の寿などはずっと大胆だった。寿は、夫の伊之助が相州警備を命じられ関東へ出張したため、しょっちゅう実家である杉家に来ていた。彼女が塾生を呼び捨てにして、軽口をたたき合....

きるまでにはなかなか至らなかった。姉の寿などはずっと大胆だった。寿は、夫の伊之助が相州警備を命じられ関東へ出張したため、しょっちゅう実家である杉家に来ていた。彼女が塾生を呼び捨てにして、軽口をたたき合っているのを見ると、自分もあんな風に彼らと接することができたら楽しいだろうなあ、と寿がうらやましく感じられるのだった。文は塾生と接するより、むしろ敏三郎の相手をしていることのほうが多かった。敏三郎は12歳になったが、やはり聾唖の症状に変わりはなかった。文は、一番年の近い兄弟ということもあって、物心ついた頃から、彼の面倒を見る役回りを担ってきた。敏三郎は、耳も聞こえず物も言えなかったが、文は彼が思っていること、考えていることをほかの家族の誰よりもよく理解することができた。敏三郎は、普通の少年と比べても、感受性は豊かだったし、頭も悪くなかった、というよりむしろ利発だった。もっとも、しゃべれないから、小さい頃は近所の子供たちによくいじめられた。そんな時、文は敏三郎を連れ、棒を持っていじめた子の家へ行き、弟に謝りなさい、謝らなければ承知しないよ、と言って、棒を振り上げたりすることもあった。さすがの寿も、「文ちゃん、敏のことになるとすごいわね」と感心したが、自分でも思わぬ行動に出ることがあったのである。松下村塾105