杉家の女たち

杉家の女たち page 12/18

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久坂の方は、幾分常識的な感じではあったが、漢詩や詩吟が得意で声も体も大きく、いつも議論の中心にいる、いかにも頭のよさそうな青年であった。松下村塾では、月に1回詩会が催されていた。ある時、詩会が引けた後....

久坂の方は、幾分常識的な感じではあったが、漢詩や詩吟が得意で声も体も大きく、いつも議論の中心にいる、いかにも頭のよさそうな青年であった。松下村塾では、月に1回詩会が催されていた。ある時、詩会が引けた後で、寅次郎が久坂に、「久坂、一つ詩吟をやって聞かせい」と命じたことがあった。久坂は得意の中国の詩を音お ん吐と朗ろう々ろう吟ぎん誦しょうしたところ、高杉晋作、入江杉蔵(九一)、寺島忠三郎、品川弥二郎らその場にいた者は皆、感動して聴き入った。と、日頃寡黙な佐世八十郎(前原一誠)が突然、目にいっぱい涙を浮かべて立ち上がり、「男子の本懐は正にそこじゃ!」と一言大声で叫んだ。座の者は皆びっくりして佐世を見やったが、次の瞬間には口々に「そうじゃ、そのとおりじゃ」と叫びあって、場は騒然となってしまった。この時、文は、寿とともに煎り豆と番茶を皆に出そうとしていたところであった。横で寿が呆れた顔でこう言ったのを覚えている。「ほんとに、お酒も飲まずによくこんなに盛り上がれるわね」文には、久坂に限らず、こういう熱い思いを抱いた男の妻として、夫を支えていくことができるだろうか、という不安に取りつかれたのだった。煮え切らない態度の文を見て、寿は突拍子もないことを言った。108