恋する幸村

恋する幸村 page 9/24

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「それに、兄・信玄には父・信の ぶ虎とらを甲斐から追い出して、家か督とくを奪った過去があります。血を分けた息子に敗れた父の気持ちは想像するに余りあります。父は流る浪ろうの末、今は京に住んでおり、もし、....

「それに、兄・信玄には父・信の ぶ虎とらを甲斐から追い出して、家か督とくを奪った過去があります。血を分けた息子に敗れた父の気持ちは想像するに余りあります。父は流る浪ろうの末、今は京に住んでおり、もし、れっきとした公家の女子を信玄の縁者に送るようなことになれば、父は黙ってはおりますまい。だから、こちらとしては、そなたのような身分の者をこっそり、甲斐へ嫁がせるしかないのです」夫人はほとんど哀あ い願がんするような口調になっていた。さくらは、そんな武田家の事情で、何で自分が駆り出されなければならないのか、とても納得できなかったが、拒否することは到底許されない雰囲気だった。今にも泣きだしそうなさくらを見て、夫人は再び優しい表情でこう諭した。「もちろん、菊き く亭てい晴はる季すえの養女として送りだしますから、向こう側にとっては、公家の女には違いありません。それは大切に扱ってくれましょう」「けれど奥方様、私は公家のしきたりや言葉遣いなど、まったく心得てはおりませぬ」さくらは一つ口実を見つけて訴えた。が、夫人は全く動じる様子がなかった。「心配せぬとも、嫁ぐ日までに私が伝で ん授じゅしてしんぜます。甲斐国の土地柄や方言についてもいっしょに。なあに相手は田舎侍です。それらしく振る舞うだけで十分騙だ ましとおせましょう。そなたは働き者だし、頭も器き量りょうもよい。そなたなら必ずやってゆけます」母の素性9