恋する幸村

恋する幸村 page 16/24

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は思えぬその美しさに、長旅の疲れも忘れてうっとりと見入ってしまった。一行はさらに東進し、富士川の手前で東海道と別れると、富士川に沿って北上した。雪を頂いた富士はもう目の前に聳そ びえている。目的地であ....

は思えぬその美しさに、長旅の疲れも忘れてうっとりと見入ってしまった。一行はさらに東進し、富士川の手前で東海道と別れると、富士川に沿って北上した。雪を頂いた富士はもう目の前に聳そ びえている。目的地である甲斐府中( 甲こ う府ふ)にさくらが到着したのは、京を立ってからちょうど一月後のことであった。*甲府は、富士川上流の釜か ま無なし川と笛ふ え吹ふき川に挟まれた盆地にあり、京と同様周囲を山で囲まれていたが、その高さたるや京のそれとは比較にならなかった。西方には赤あ か石いし山脈、北方には奥お く秩ちち父ぶ山地、東方には大だ い菩ぼ薩さつ嶺れい、南方には富士を背景に御み坂さ か山地が走り、いずれも2?3千メートル級の峰々が連なっている。高くても愛宕山や比叡山など千メートルに満たない山しか見たことのなかったさくらの目には、何とも圧倒される景観であった。こんな異次元の環境は、おそらく自分などには及びもつかない人間を生み育てるに違いないと、さくらは改めてこれから始まるこの国での生活に恐れと不安を抱いたのだった。彼女がまず連れて行かれたのは、躑つつ躅じヶが崎さき館やかたという大きな邸宅であった。躑躅ヶ崎館は周囲を堀で囲まれ、その広さはさくらが働いていた菊亭家の数倍はあろうかと思われた。16