恋する幸村

恋する幸村 page 12/24

電子ブックを開く

このページは 恋する幸村 の電子ブックに掲載されている12ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「電子ブックを開く」をクリックすると今すぐ対象ページへ移動します。

概要:
しかし、さくらには何としても断らねばならない理由があった。彼女には将来を誓い合った、同い年の恋人がいたのである。容姿に恵まれたさくらに言い寄る男は少なくなく、その中から彼女が選んだのは智と も丸まると....

しかし、さくらには何としても断らねばならない理由があった。彼女には将来を誓い合った、同い年の恋人がいたのである。容姿に恵まれたさくらに言い寄る男は少なくなく、その中から彼女が選んだのは智と も丸まるという鍛か冶じ職人で、今は鉄砲の製造に夢中になっていた。さくらは一度、上京の鍛か治じ屋や町にある彼の仕事場で鉄砲を触らせてもらったことがある。智丸は鉄砲の構造について縷る々る解説するとともに、その殺さっ傷しょう能力がいかに優れているかを、さくらに熱っぽく語った。「刀や槍や りの時代はもう終わりだ。鉄砲を使いこなした者が天下を取る。乱世を終わらせ、太平の世をもたらすにはどうしても鉄砲が必要なんだ」と。ポルトガル人によって、鉄砲が大お お隅すみ国(鹿児島県)の種た ね子が島しま に伝来したのは、天文12年(1543)8月のことである。種子島の冶や金きん職人が複製を作ったことから、鉄砲の製造法は急速に全国へと広まっていった。関西では近お う江み国の国く に友とも(滋賀県長浜市)や和い ず泉み国の堺さかい(大阪府堺市)が、鉄砲の生産地として名を成すようになる。天文19年(1550)の夏、京都市中で行われた将軍・足利義よ し晴はると三好長慶との戦いで、記録上日本初の鉄砲による戦死者(三好側与よ力りき)が出ており、さくらが菊亭家の下女になった頃には、京都周辺でも鉄砲の製作に携わる職人が何人かいたのだろう。晴季夫人に呼び出された翌日、さくらは、災難の如く自分に降りかかったこの縁談につ12